リーダーシップ研修の効果をどう測定するか(その2)
リーダーシップ研修の効果をどう測定するか(その1)はこちら
前回は、3種類の研修効果測定について解説しましたが、今回はDonald Kirkpatrick(ドナルド・カークパトリック)氏による4レベルの研修効果測定法をご紹介します。有名なモデルですので、ご存じの方も少なくないでしょう。
4つのレベルとは、反応・学習・行動・結果ですが、その後、Jack Phillips氏が5番目のレベルとしてROI(Return on Investment 投資効果)を付け加えました。5つのレベルは、よく次のようなピラミッドで表現されています。
それでは、それぞれのレベルについて詳しく見つつ、ブランチャード・ジャパンでは、どのように効果を把握そして測定しているのかについて、ご紹介しましょう。
■レベル1 反応(受講者の研修に対する反応)
レベル1の研修効果測定は、受講者に研修の満足度についてアンケートを取ることが一般的です。得点をつけてもらう他にコメント記入により、定性的に把握することも重要です。また、単に研修への満足度を聞くのではなく、「実務に役立つか」「自分のキャリア形成に役立つか」「他の人に薦めるか」などと、聞き方に工夫をすることができます。さらには、受講者の当事者意識を高めるために、「受講者として自分は積極的に参加したか」「他の受講者の学習に貢献したか」などといったことを聞く場合もあります。
■レベル2 学習(受講者の学習度合)
研修受講によって受講者の知識やスキルがどの程度向上したか、考え方やものの見方がどう変化したかを測るのがレベル2です。これらはテストやインタビューの実施などによって測定されます。
より厳格に測定するためには、受講の前と後にテストを行うことが必要です。科学的に効果測定をしたいなら、コントロール群(研修未受講の人のグループ)の学習度合と比較する対照実験法を取ることが有効です。
ブランチャード・ジャパンでは、通常、「従業員志向の方法(Holcombの分類)」でレベル2の効果を把握しています。具体的には、SLII®の最中に行われる状況診断のゲームやマッチ・ミスマッチのロールプレイ演習の観察を通じて、受講者がSLII®理論を正しく理解できているか、スキルを使えているかを傾向として捉えることができます。
より定量的に測定したければ、状況診断と合致するリーダーシップスタイルを見極めることをテストするLBAII*というアセスメントツールを、研修の前と後に実施して、そのスコアの変化で学習度合を計測することができます。
*LBAII (リーダー行動分析II):与えられた状況に対しふさわしいリーダーの行動を4択で選ぶ24問から成るアセスメントツール。SLII®受講により、状況の診断と適したリーダー行動の選択ができるようになる。
■レベル3 行動(受講者の行動変容の度合)
リーダーシップ研修のようなソフトスキル系の研修では、レベル3の効果測定は困難を伴いますが、とても大事なことです。「頭ではわかっていても、行動には移していない」という事態がよく起こりうるからです。レベル3の効果測定をすることは、行動変容が生じたかどうかを捉えるだけでなく、もし生じていないとしたらその原因は何なのかを突き止め、対策を打つことにも役立ちます。
レベル3での効果測定を行なうためには、研修の学習目標を行動ベースで記載しておくとよいでしょう。つまり、「リーダーシップを強化する」や「リーダーシップについて学ぶ」といった書き方ではなく、「部下と効果的に面談できるようになる」や「適切な組織目標を立て説明できるようになる」という風に、職場においてどういう行動がとることが期待されているのかを明記するのです。
そして、研修後のアンケート調査やインタビュー調査を通じて、目標とされた行動を始めたかどうか、あるいは行動の頻度や質が向上したかどうかを探ります。リーダーシップ研修の場合は、受講者本人だけでなく、受講者の上司や部下などにも質問できればなお効果的です。集計しやすいように、4択などの選択方式で質問するとよいでしょう。
SLII®研修では、メンバー(部下)の開発レベルの診断や、最適なリーダーシップスタイルの選択、メンバーとの個別面談 (one-on-one)など、受講者が職場に戻ってとるべき行動が明確に提示されます。したがって、受講後に、そのような行動をとったかどうか問うアンケート調査を実施して、レベル3の効果を把握するのが比較的やりやすく、多くの企業様がそうされています。
たとえば、ボストン・サイエンティフィックジャパン様が行った効果測定事例が紹介されていますので、ご参照ください。
また、研修の事前と事後に受講者の部下にLBAIIに回答してもらうことで、受講者のリーダーシップスタイルが変化したかどうかを間接的に把握する方法もあります。ただし、この方法は回答者の負担がやや重いことに留意する必要があります。
さらには、LAPというアセスメントツールを活用して、実際の受講者による部下へのリーダーシップ発揮方法を測定する方法もあります。これも研修の事前と事後に行えば、変化の度合いを把握することができます。詳しくは、こちらの記事を御覧ください。
■レベル4 結果(組織にもたらす結果)
レベル4では、受講者が研修から学び(レベル2)、それを行動に移す(レベル3)ことで、どのような結果を組織にもたらしたかを測ります。組織にもたらす結果とは、たとえば業務品質(エラーの削減や正確性の向上など)、業務スピード、顧客満足度(またはクレーム数)、売上高、従業員の定着率、従業員の組織満足度、費用や在庫などといった指標などで測ることができます。
レベル4で効果を測定するにあたって留意すべき点は3つあります。1点目は、本当にこのレベルでの測定が必要かどうかの見極めです。レベル4の効果測定の作業は手間がかかるので、Kirkpatrick氏は、「レベル4まで測定するのは、企業にとって最重要で、多大な予算を伴う研修だけでよい」と言っています。
2点目は、もしこのレベルで測定するなら、どういった行動がどのような業績に結び付くのかを事業の責任者またはしかるべき人とよく検討する必要があるということです。さらに、当然ながら、こうした指標の数値は研修だけで上下するものではないことを承知しておくべきです。
3点目は、こうした結果が出るには、研修実施から一定の時間が必要だということです。したがって、効果測定のタイミングについても熟慮しなくてはなりません。
■レベル5 ROI(投資効果)
レベル5の「研修の投資効果」を測定するには、まずレベル4で測定した組織の結果を金銭換算し、それを研修実施に投じた費用で割ることになります。顧客満足度や従業員満足度といったレベル4のデータを金額換算することは容易ではありませんが、事業責任者や担当者と相談しながら幾つかの仮説を置くことでそれが可能になります。外部のコンサルタントの助けを得ることも有効です。
次号では、SLII®研修実施後にレベル4と5を測定した事例をご紹介します。
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